演技で泣くための方法ってなんかあるの?
先日マンツーマンレッスンでこんな会話がありました。
相談をくれた彼は一生懸命泣こうとしているのになかなか上手く行かないとの事。
ところで泣く演技について説明する前に覚えておいて欲しいのは
涙自体に価値は無い
という事です。
本当に感情が動いている人を見て、私たちは感動します。
そして
感情的なシーンは俳優にとっての見せ場です
おそらくこれを読んでいる方が最初に頭に思い描くのも、登場人物が感情的になっているシーンかと思います。
感情的なシーンというのは、それだけ人の記憶に残ります。
だからこそ、感情的なシーンを成功させることは俳優としての成功に直結するのです。
オーディションで泣くシーンがあったりしたらチャンスですよね。
泣く演技をしっかり決められれば、合格の可能性はかなり高くなります。
オーディションについてはこちらも参考にしてみて下さい。
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ということで今回は、感情の中でも泣く演技について解説していきます。
泣く演技というのは、プロの俳優でも苦手な人は多いです。
ぜひ取り組んでみてくださいね。
それでは始めましょう!
なぜ泣く演技が出来ないのか?人間にはそれぞれ得意な感情表現がある!
さて3ステップを紹介する前に
なぜ泣くことが難しいのか?
という事を説明します。
女性だと最初から泣く演技の出来る人もいますが、男性で最初から泣ける人はほぼいません。
これは泣く演技だけではなく、喜怒哀楽全てに言える事なのですが
人によって通りやすい感情は違います
例えば男の子であれば
「男がメソメソするな!」
「男が涙を見せるな!」
こんな言葉聞いた事あると思います。
男は泣いちゃだめなんだという教育によって
泣くという衝動を抑えるトレーニング
をし続けてきたんですね。
女の子であれば
「女の子なのにはしたない」
「女の子がそんな言葉使っちゃダメ」
こんな言葉で教育を受けてきた人が多いです。つまり
怒りの衝動を抑えるトレーニング
をし続けてきているのです。
実際レッスンで見ていると
相手役に怒鳴りつける事が出来ない女性は結構多いです。
周りにいませんか?
怒られているのに、笑っちゃう子
この子は本当は悲しいのかもしれません。
または怒られている内容が理不尽で憤りを感じているのかもしれません。
でも、泣く衝動に従うのは恥ずかしいし、憤りのままに反抗すればさらに怒られる。
だから衝動を抑えているのです。
そんな衝動を抑えるトレーニングを、我々は日常生活の中で知らず知らずに積んでいるのです。
ステップ1 生活の中での泣く演技のトレーニング
ステップ1はまだ作品に向かう前の段階の話です。
どんな俳優でもトレーニングは必要です。
アメリカでは第一線で活躍するハリウッド俳優であっても、演技のトレーニングをしっかり受けています。
野球選手やサッカー選手が毎日のトレーニングを怠らないように、俳優だって普段から腕を落とさない為の工夫が必要なのです。
という事で、泣く演技が出来るようになるために、家でも出来るトレーニングを紹介します。
トレーニングというと、ちょっと大袈裟かもしれません。
普段の生活の中で
泣く衝動があれば思いっきり泣いてください
泣く演技を出来るためには、普段から泣く事の出来る人である必要があります。
そりゃそうですよね。
普段泣くことが出来ないのに、演技の時だけ泣けるという事はあり得ません。
具体的には感動的な映画やドラマを観ながら、思いっきり泣いてみるのが良いでしょう。
家の中で観ていれば恥ずかしく無いですしね。
映画は登場人物を通して我々に未知の経験をさせてくれます。
そして
感情も筋肉と同じで、使えば使った分だけドンドン大きくなります。
例えば、あなたがこれまで経験した中で、一番悲しかった事はなんでしょう?
- 一生懸命努力してきたのに、3年生の最後の大会で予選敗退
- パートナーが自分の友達と浮気をした
- 飼っていた猫が死んでしまった
これらは本当に悲しい事だと思います。
ですが
自分の叔父さんに父親を殺され、父親を殺した叔父さんと母親が結婚した。
という経験を持っている方はなかなかいないのでは無いでしょうか?
ちなみにこれはシェークスピアの名作「ハムレット」の設定です。
ハムレットを演じるには、事前にハムレットと同じくらい深い絶望に触れておく必要があります。
映画を利用して、あなた自身のできる限り深い感情に触れておきましょう。
日常生活の中での泣く演技のトレーニング
コツは二つあります。
泣く演技トレーニングのコツ①
まずは
声を出して泣く事です。
自分で「ちょっと大袈裟なんじゃないか?」と思うくらい泣いて下さい。
実際に泣く事で
感情と演技のパイプが繋がってきます。
多くの俳優は、感情のパイプが詰まってしまっている状態です。
理由は先ほど説明しましたが、日常生活の中で衝動を抑えるトレーニングをしてしまっているからですね。
そのままでは本当に悲しいことがあったとしてもスムーズに泣く事はできません。
最初はうまくいかないかもしれませんが、泣く演技の練習だと割り切って、泣く衝動に全力で飛び込んでください。
周りにすぐ怒る人はいませんか?
反対にすぐ泣いちゃう人はいませんか?
何をされてもいつもニコニコしてる人は?
その人たちは、特定の感情のパイプだけ繋がってる状態です。
だから本当に感じている感情が間違ったパイプを通って出てきてしまうのです。
泣く演技トレーニングのコツ②
衝動を抑えることに慣れていると気がつかなくなりがちですが
本当はあなたは毎日色んな事を感じています。
自分が感じている事に敏感になって下さい。
我が家には幼稚園の娘がいます。
小さい子は衝動を抑えるという事をしませんので、見ていると非常に勉強になります。
朝眠いと泣き、ご飯が熱いと怒り、好物を落としては泣き、お気に入りのおもちゃを取られて怒り、取り返せずに泣き。。。。
小さい子供みたいにみずみずしい感性で日々を過ごせたら、俳優にとってはとても良いトレーニングになります。
ちなみに
現代のすべての俳優に影響を与えていると言われているスタニス・ラフスキーは著書の中で「俳優の1番の師匠は猫である」と書いていました。
常に衝動に従い続ける猫や子供は目が離せません。
なぜなら、次の瞬間どうなるのか見ていて予測が出来ないからです。
みなさんも舞台上やスクリーンの中で
常に目が離せない俳優
と言われたいですよね?
衝動に従う事と感じられるようになる事は別ですが、まずはフットワーク軽く感じられるようになりましょう。
感じることが出来なければ衝動に従う事もできません。
※あくまで俳優の為のアドバイスになります。日常生活の中では、感じやすい事は苦しみに繋がることもあるので、俳優を志す方は生き方からして覚悟が必要です。
ステップ2 作品に向かう時の泣く演技の準備
シーンを演じるにあたって、その前の時間を想像力を使って具体的にして下さい。
台本は登場人物のハイライトです
台本で切り取られた時間の前にも登場人物の時間はあります。
でも台本にはその前の時間が全て描かれているわけでは無いのです。
シーンを演じるにあたって泣く演技が出来るかどうかは
その前の時間が具体的になっているかどうか
で決まってきます。
例えば父親が亡くなったというシーンがあるとします。
一般的に言えば、悲しいシーンでしょう。
でも演じるにあたって、悲しいかどうかは人それぞれですよね?
なぜなら、お父さんと会ったことの無い人だっていますから。
例えば産まれた時から施設で育っていて、お父さんの顔を見たことがない人にとって、急にお父さんが亡くなったと聞いてもピンとこないでしょう。
悲しいとしてもどのように具体的になっているかによって種類が変わってきます。
同じ「お父さんが亡くなった」という状況ですが、ずっとお父さんと仲が良くて病気で亡くなったという状況とは変わってきますよね?
なぜ急に会えなくなったのか教えて欲しかったし、なぜ自分と母親を捨てたのか父親の口で説明して欲しい。
そしてもっと愛を与えて欲しかったですよね。
怒りが混ざった悲しみになってくるのが分かります。
人間の感情は1つの種類だけではありません
大人になればなるほど、感情はマーブル模様のように何種類も混ざり合ってきます。
ただ悲しいだけ、という方が稀です。
ですので、喜怒哀楽という単色の感情になっていると幼く見えやすいです。
同じ泣く演技をするにしても、人間の複雑さを表現するためにはしっかり具体的になっている必要があるのです。
具体的にするということの例
お父さんが亡くなったというシーンで泣くのであれば、亡くなる前にどういう時間をお父さんと過ごしているのかが重要になります。
具体的になっていない場合、演じる自分自身がそのことを一番よく分かっているので、想像の世界を信じることが出来ません
シーンを例に取るのではなく、あなた自身のお父さんが亡くなったとして一度考えてみて下さい。
俳優以外の人からしたら不謹慎に感じるかもしれませんね。
俳優のみなさんは、想像の世界を生きるということに喜びを感じながら、楽しんでやってみて下さい。
これだけだと信じられませんよね?
なぜなら全く具体的になっていませんから。
本来なら、どんな状況であれ、お父さんが亡くなったら悲しいという方が多いのではないかと思います。
なのに悲しくないのは、その状況を信じられていないからです。
信じられていないからといって心配する必要はありません。
プロの俳優でもやみくもに状況だけを信じるのは不可能です。
むしろ状況だけで無理やり泣く演技をしようとすると、それこそ意味の無い涙になってしまいます。
少しづつ具体的にしていきましょう。
みなさんそれぞれの答えがあると思います。
急にお父さんが亡くなったとしたら、どんな可能性がありますか?
・交通事故
・強盗に刺された
・病気
・自殺
なんでも結構です。
ただ、泣く演技をするということに焦点を当てるのであれば
自分が一番辛い
という選択をして、具体的にして下さい。
交通事故という選択をしたのであれば
・どんな事故でしたか?
・誰が運転していましたか?
・どんな状況?
などなど
自分にいろんな質問をして、信じられるようになるまで具体的にしてみて下さい。
参考までに私自身が信じられるようになるまで具体的にしていくとすると
これくらいまで具体的になると、私としては信じられます。
自分に実際にあった出来事として、具体的にしてみて下さい。
情景が思い浮かぶくらい具体的になっていればOKです。
その上で、台本を演じるにあたって大事なのは
演じるシーンの台本から外れない形で、自分の感情を刺激できるように具体的にする
ということです。
自分の感情を刺激できたら、いよいよ実際に演じてみましょう!
ステップ3 いざ本番!実際に泣く演技をする時の心構え
台本に沿って具体的にすることが出来たら
具体的にしたことは完全に手放して下さい
もう一度お父さんが亡くなったという状況を考えてみて下さい。
我々の中にはお父さんとの思い出が
存在しているだけ
なのです。
実際に大事な人との別れを体験するときに、自分の中にある具体的なエピソードをなぞったりはしません。
普段しないことを演技中にしようとすると想像上の世界から抜けてしまいます。
先ほども説明しましたが、あなた自身が信じる事が出来なくなるからです。
もう一つ例を挙げると
あなたのお母さんがひき逃げにあったという状況を思い浮かべてみて下さい。
あなたは近くの交番に駆け込みます。
その時
自分の事は完全に放っておいているはずです
あるのは
交番のお巡りさんに助けてもらいたい
という欲求のみです。
お母さんとの思い出を頭の中でなぞっていては
これは嘘なんだ
と自分で自分に言い聞かせているようなものです。
具体的にした後は、放っておいて欲求に基づいた行動をし続けて下さい。
しっかり具体的になっていれば、完全に手放してもあなたの中に残っているから大丈夫。
逆に手放すことが出来ていなければ
自然発生的に泣く
という事はできません。
台本もらったからとりあえず覚えたけど、この後どうすれば良いの?レッスンのクラスでこんな質問がありました。 演技に取り組み出してあんまり経ってない人は台本を覚える以外何したら良[…]
こちらでも説明していますので、まだ見ていない方は読んでみて下さい。
手放す、という事はとても怖い事です。
何もなくなっちゃうんじゃないか?
と心配になるのは、とても良く分かります。
ですが
基本的に我々は日常生活で自分から泣こうとはしません
だって人前で泣くのは恥ずかしいですからね。
泣こうとしていては、想像の世界で真実に生きることはできないのです。
一度でも
手放すことで自然発生的に泣く
という事が体験できれば、それが成功体験になって、手放す事が少しづつ怖くなくなります。
もしも自分だけで上手くいかなければ、是非試しに演技レッスンを受けてみて下さい。
泣く演技についてのまとめ
いかがでしたでしょうか?
- 普段から感情の幅を広げるトレーニングをしておく
- シーンの前の時間を具体的にする
- 手放す
この3ステップです。
具体的にするのは最初は時間がかかるかもしれません。
ですが経験を積めば、具体的にする速度はドンドン上がります。
自分の感情を刺激するコツは
悲しい方向に大きい感情を作りたいなら、楽しい時間を作っておく
楽しい方向に大きい感情を作りたいなら、逆に辛い状況を作っておく
という事です。
ご飯を美味しく食べたいなら空腹を作っておくのが必要なように
大学に合格してすごく幸せを感じるためには、その前の苦しい受験勉強の努力が必要です。
勉強しなくても簡単に合格できたら、大して嬉しくはならないですよね?
子供を失って絶望を感じるためには、子供が産まれてからの最高に幸せな時間が必要です。
想像の世界を具体的にするというのは、俳優のかなり特殊な技術です。
ですが訓練すれば出来るようになりますので、是非取り組んでみて下さい。
今日もありがとうございました!