最近は舞台公演の制作に携わっており、基本的には脚本と向き合う生活になっています。
とはいえずっと考え続けていても煮詰まってしまうので、気分転換に小説を読みました。
辻村深月先生の「嘘つきジェンガ」
3つのお話からなる短編集で、一つ一つのお話はサクッと読み切れます。
辻村美月先生について
20代の頃から小説をいくつも発表していて、数々の賞を受賞されています。
以前「凍りのくじら」や「スロウハイツの神様」を読みましたが、伏線の張り方が綺麗で物語もとても面白く、当時何度か読み直しました。
そして今回改めて作品を振り返ってみると、上の2作品は辻村深月先生が20代のころに書かれているものなんですね!
自分自身の20代を振り返ると、先生の凄さを痛感します。
経歴を見ると幼いころから読書好きで、小学校6年生のころに綾辻行人先生の「十角館の殺人」を読んで大ファンになったそうです。
いや、小学校6年生で「十角館の殺人」を読もうと思います!?
こういう方が天才というんでしょうね。
僕は完全に大人になってから読みましたが、小学生の時にはミステリーものにはまったく興味を持てませんでした。
そもそもミステリーは内容が難しくて読み切ることも出来ませんでした。
※「十角館の殺人」は漫画にもなってるようなので、興味のある方はこちらからご確認ください。
ちなみに僕は小学校6年生の時に「十五少年漂流記」を読んで読書感想文を書いた覚えがあります。
正直時代背景などは何も分からず読み切りました。
小学生はやっぱり冒険が好きですからね。
嘘つきジェンガのあらすじ
3作品収録されていますが、どれも詐欺にまつわるお話です。
辻村深月先生といえば、作品をまたいで別の作品の登場人物が出てきたりします。
今回もやはりリンクしている部分もあって、ファンにとってはちょっと嬉しいですよね。
2020年のロマンス詐欺
コロナ禍の大学生を描いた作品です。
山形から大学のために上京してきた「加賀耀太」が、緊急事態が発令されたことにより大学も始まらず、実家の飲食店も営業できなくなったことにより仕送りも半分になってしまいます。
さらにコロナの影響でバイトもうまく決まりません。
鬱々とする生活の中で、地元の知り合いから仕事を紹介されました。
「メールを送るだけの簡単なバイト」と紹介されて、多少の胡散臭さは感じたものの、高額な報酬に目がくらんで引き受けてしまいます。
そのバイトは、異性に連絡するロマンス詐欺と言われているものでした。
五年目の受験詐欺
主婦の風間多佳子
次男の中学受験の時に「まさこ塾」という完全紹介制の教育塾に通っていました。
受験生の為の塾ではなく、受験生をもつ親の為の塾です。
当時成績が上がらず苦しむ息子と共に苦しんでいましたが、ある日「まさこ塾」で特別紹介の事前受験という話を持ちかけられます。
多佳子は夫にも秘密で「まさこ塾」に100万円を支払い、次男は中学受験に無事合格。
以降多佳子は5年間の間、言いようの無い罪悪感と共に生活してきましたが、ある日「まさこ塾は詐欺だった」と知らされる事になります。
あの人のサロン詐欺
主人公の「紡(つむぎ)」は過去には専門学校に通って創作の道を志していましたが、物語を紡ぐことで生計を立てることの厳しさを知って他の仕事につきました。
しかし仕事はうまくいかず、アルバイトも全く続かない日々。
荒れている生活の中でのたった一つの癒しは、憧れの作家の物語に触れることです。
ある時承認欲求を満たすために、紡は憧れの作家の名前を名乗りだします。
そして今では憧れの作家の名前を名乗ってサロンを開くようになりました。
いつまでも続くことではないと知りながら、憧れの作家と同一の存在になるという万能感が心地よく、周りにも自分の家族にも偽ってサロンを開き続けています。
嘘つきジェンガの感想
どのお話も、気持ちが不安定になっている時に甘い誘いに乗ってしまった人たちのお話です。
「自分には起こりえない」
と言い切れるものは何一つ無くて、そこが恐ろしいと思うのです。
コロナという環境だったり、受験勉強だったり、自己肯定感を奪われている状態で特殊な精神状態になるのは誰しも経験したことがあるんじゃ無いでしょうか?
「詐欺」が露見したら人生が破滅してしまうという3人の物語ですので、読んでいるととてもハラハラします。
3つ目の「あの人のサロン詐欺」なんかは、承認欲求を満たしたい俳優志望者にとっては他人事とは思え無いはずです。
僕も何度も先を読むのが恐ろしくなりましたが、そこは辻村深月先生というか、救いの無い結末にはならないという信頼感で読み進めました。
どのお話も最後は明日に希望を持てる形で幕を閉じます。
同じ題材で同じ背景の登場人物でも最後に破滅するストーリーなら容易に想像できますが、最後に温かい気持ちにさせてくれるのは流石です。
最後に
詐欺を働こうという人たちは、俳優としての解釈で言うと基本的に力を求めている人たちです。
潜在意識のお話ですが、よくわからない方は是非こちらの記事を読んでみてください。
前回台本における潜在意識の欲求について紹介してきました。見ていない方は是非そっちを最初に読んでみてください。[embed]https://actingnote.com/character1-225.html[/embed][…]
しかし辻村先生の小説で出てくるのは、基本的に愛を求めている人たちです。
詐欺を働くにも関わらず愛を求めていると言う人物を描くのは難しいと思いますが、だからこそ、温かい気持ちで終えられるんですね。
ちなみに、俳優はほとんどが「人から認められたい=愛されたい」と言う人たちです。
愛を求めている人は、詐欺師の言葉を信じてしまいやすいので、特に気をつけてください。
僕自身、もう15年くらい前ですが、簡単な詐欺にあったことがあります。
一万円程度なので金額としては大したことはありませんでしたが、困っている人を助けたつもりが詐欺だったので、精神的にきつかったです。
小説の中でも描かれていますが、金銭的なこと以外にも奪われるものはたくさんあります。
気をつけて生きていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!