レペテション
英語での表記はrepetitionになります。
発音の違いで日本の演技レッスンの場では、レペテション、レペティション、レペテーションなどと微妙に呼ばれ方は違います。
おそらく現場などで聞いた事ある方もいるのではないでしょうか。
レペテションは簡単に言うと、繰り返しのゲームを通して会話の練習をしようというエクササイズになります。
今回はそんなレペテションについて紹介したいと思います。
レペテションってなんだ?
スタニス・ラフスキーと言うロシアの演出家・俳優がいまして、この人はその後の演技に大きな影響を与えました。
スタニス・ラフスキーの考え方に触発され、アメリカではリー・ストラスバーグと言う人がグループシアターと言う団体を立ち上げます。
サンフォード・マイズナーと言う人もこのグループシアターに所属していたんですが、のちに方向性の違いから独自の道を歩む事になりました。
レペテションは、サンフォード・マイズナーが構築したマイズナーテクニックの中でも最も有名なエクササイズです。
サンフォード・マイズナーは1935年からネイバーフッドプレイハウスで指導をしていました。
朝から晩まで毎日クラスに通う中で、最初の4週間はこのレペテションしかさせなかったそうです。
レペテションの目的
レペテショントレーニングをする目的は主に二つ
- 会話の練習
- 開いた状態を作る
これはどちらも俳優として必要なものです。
レペテションの目的1つ目:会話の練習
もちろん、ただの会話ではありません。
ただの会話だったら普段からしていますからね。
本能のままにやり取りをする練習になります。
例えば
上司「〇〇くん。今日仕事終わったらどう?一杯。」
あなた「(今日はちょっと眠いんだよなぁ〜)えーっと、今日何か予定入ってたと思うんですよね。ちょっと一度確認してからお返事でも良いですか?」
上司「そう?じゃ予定が終わったら連絡してよ。多分いると思うから」
あなた「(うわー、面倒くせー!)了解です!ありがとうございます!」
こんな状況、ありますよね?
これは衝動でやり取りをしていない状態です。
というよりは、私たちは基本的に日常生活の中では衝動でやり取りをしません。
衝動でやり取りをしていると他人とぶつかってしまうからです。
物語の中を自分の日常の延長線上と考えてしまうと、物語が面白くなくなっちゃうよ!
よく考えて欲しいのですが、日常生活で誰かを殴ったり怒鳴ったりする事ってそうそうありません。
でもドラマの中では人を殴ったり、怒鳴りつけたりしてますよね。
怒鳴らず・泣かず・爆笑せずに、一つの作品になっているものはかなりレアだと思います。
普段他人とそういう関わり方をほとんどしていないからこそ、必要に応じて本能的に生きるためには特殊な訓練が必要になるのです。
レペテションの目的2つ目:開いた状態を作る
俳優は常に他者や物事に対してオープンでなければいけません。
他の言い方をすれば影響を受けやすい状態でないといけません。
その状態をいつでも使えるテクニックとして習得しておく必要があります。
呼吸器をつけた恋人の枕元に駆け寄るあなた。
恋人の手を握りながら涙ながらに叫ぶ。
「死なないで!」
前後の流れは全く分かりませんが、おそらく感動的なシーンでしょう。
しかし残念ながら、死にそうな恋人役の俳優とは現場で初めて会う事がほとんどです。
しかも恋人じゃないし、なんなら死にかけてもいません。
相手役の俳優に対して開いた状態になっていないと
とか
本来死にそうな恋人に対してするはずのない思考をしてしまいます。
想像の世界にはいれなくなってしまうんですね。
開いている状態になっていないと、相手ではなく自分に意識が向きやすくなります。
自意識についてはこちらでも解説していますので、参照してください。
こんにちは。アクティングコーチのイルカ先生です。私は20年間芸能の世界に関わってきました。自分自身も実際に俳優として、プロの世界で演じています。TVドラマ、映画、CM、舞台といった各メディアに出演しています。[…]
これでは泣くことも出来ないでしょう。
泣く演技についてはこちらで紹介していますので、よかったら参考にしてみてください。
タコ全然泣けないよー!演技で泣くための方法ってなんかあるの?いるか先生泣くこと自体は演技の本質では無いけど、俳優としては泣きたいよねー。先日マンツーマンレッスンでこんな会話がありました。[…]
自意識に邪魔されない為には、開いた状態を作れていることが重要です。
初めて会った人に対してもあなたの親や親友と同じように接することが出来れば、開いた状態を手に入れたと言えるでしょう。
レペテションのやり方
レペテションは一人では出来ません。
二人一組でやるトレーニングになります。
最初に断っておきますが、実際にやらずに感覚を掴むのは非常に難しいです。
本来なら指導者の元で訓練を積むべきですので、今回は概要を掴むだけだと思ってください。
レペテションその①ー集中による繋がり
まず向かい合って立ちます。
相手を隅から隅まで観察してください。
言葉では説明が難しいのですが、最初は観察で大丈夫です。
しかし慣れてきたら観察と言う意識も捨ててください。
相手をあなたの中に取り込むような感覚です。
完全に開いた状態でお互いに相手を受け入れていると、相手と繋がっているような感覚になってきます。
レペテションその②ーコンタクト
相手と繋がって、視線を交わしていると何か言いたくなってきます。
なんでも良いので言葉にしてあげましょう。
「パーカー格好良い」
「鼻毛出てる」
「前髪セクシー」
なんでも良いです。
その時に感じている音で相手に伝えてあげてください。
レペテションその③ー繰り返し
言われた事を聞いたら、相手はそのままの言葉を繰り返します。
ただし、その時に自分の中に生まれた衝動と共に繰り返します。
パーカーを褒められて嬉しければ嬉しいまま
鼻毛を指摘されて恥ずかしければ恥ずかしいまま
セクシーと言われた事が照れくさければ照れ臭いままです。
「パーカー格好いい」
「パーカー格好いい?」
レペテションその④ー発展
そのまま同じ言葉を繰り返してもらいます。
ただし、繰り返す中で言葉が変わったら変わっても大丈夫。
「君のパーカー格好いい」
「私のパーカー格好いい?」
「うん、パーカー格好いい」
「え?パーカー格好いい?」
「そうだよ、パーカー格好いいって言ってんの」
「え?パーカー格好いいって言ってんの?」
同じ理由で主語も変わって大丈夫です。
レペテションの注意点
最初に書いた通り、レペテションは会話の練習になります。
しかしただ言葉を繰り返すだけでは会話になりません。
また、会話だとしても
「こんにちわ」
「ご機嫌いかがですか」
「良いお天気ですね」
などの会話を成立させるための会話は演技のトレーニングにはなりません。
お互いに影響を与え合うことのできるコミュニケーションにしてください。
そしてコミュニケーションとは意見交換です
意見を交換するためには、まず自分自身が意見を持っていなくてはいけません。
「パーカー格好いい」
という意見を伝えられたら、どんな意見を持つでしょうか?
「嬉しい!」かもしれませんし、もしヨレヨレの部屋着で近所のコンビニに向かった時に知り合いに会ったという状況なんだとしたら「嫌味かよ!」かもしれません。
どんな意見だったとしても、自分の中で確固たるものとして相手に伝えてください。
しかし、その時に使う言葉は相手の言葉の繰り返しです。
なぜなら、俳優は脚本があるために自由な言葉で話す事はできません。
ですのでどんな言葉であっても、自分の意見を相手に伝える必要があります。
自分自身を開いた状態にして、相手からの影響を受けてください。
確固たる意見を持って、相手に影響を与えてください。
頭で考えるのではなく、その時の衝動で会話をしてください。
電車の車内で衝動的に怒鳴り合っている人がいたら注目を集めますよね?
号泣している男女のカップルがいたらやはり目がいってしまいます。
衝動的なやり取りは注意を引くのです。
もちろん演じるキャラクターが常に衝動的な訳ではありません。
しかし電車の例でもわかるように、ドラマの中では衝動的にならざるを得ない場面が必ずあります。
ですので俳優は衝動の扱い方を熟知していないといけません。
さいごに
「自分が死んだらレペテションは封印してくれ」
しかし他者と心から繋がる事ができるようになれば、誰にとっても幸せな気持ちになるはずです。