東京はかなり暑くなってきました。
しかし我が家では、極力クーラーには頼らずに生活しています。
小さい子供がいるのですが、知り合いの保育士によると3歳までの間に汗腺(汗が出てくるところですね)が育つらしいのです。
3歳までにたくさん汗をかいて汗腺を育てておかないと、汗をかく量が少なくなって、成長してから熱中症になるリスクが上がるそうです。
とはいえ最近は危険な暑さですので、夜はクーラーに頼っていますが。
ということで、昼間は子供たちのために僕自身も汗をかきながら過ごしているのです。
ですがこの日は子供たちと奥さんが里帰りしており、お休みの日だった事もあって突然1人の時間ができました。
クーラーをつけようかとも思いましたが、普段みんなで頑張っている手前なんだか申し訳ないような気がします。
申し訳なく思う必要もないのですが、運動がてら気になっていた喫茶店に歩いて行って本を読むことにしました。
時間潰しのつもりで読み出しましたが、これがかなり面白かったです。
ブレイディみかこ初の長編小説「両手にトカレフ」
読みやすい書き方でスルスル読めるので
軽い気持ちで読みたい
という方におすすめです。
とはいえ
内容は全く軽くはありません。
むしろ重いです。大変です。
僕は気になっていた喫茶店で読んで、声が漏れるくらいに泣いてしまいました。
もうあの喫茶店にはいけません。。。vv
とにかく面白かったので、どういうところが面白かったのかという部分をまとめておこうと思います。
ネタバレしないように気を付けますが、読んでない方は是非実際に読んでみて下さい。
この作品もどなたかが映画化するのかな?
でもまぁ、設定が外国だから難しいのかな。
著者 ブレイディみかこさんについて
1965年に福岡で生まれて、高校卒業後にイギリスに渡ったそうです。
一度は無一文になって日本に戻ってきたそうですが、その後もう一度96年に渡英。
すごい行動力ですね。
2019年には「僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で数々の賞を受賞しています。
「両手にトカレフ」は貧困層の少女のお話です。
抑圧を跳ね除けて生きていくという話なのですが、ブレイディみかこさんも主人公のような強いエネルギーを持った方なんでしょう。
写真などを拝見すると、目が燃えてますもんね。
何かのインタビューでブレイディみかこさん自身が貧しい少女時代を送ったという記事を見ました。
差別や分断、多様性や格差などをテーマにした作品が多いのも、少女時代の影響があるのでしょう。
「両手にトカレフ」あらすじ
イギリスに住んでいる14歳のミアという少女の物語です。
イギリスでミアが何気なく手に取った本は、日本のカネコフミコの自叙伝でした。
ミアは自分と境遇の似た、カネコフミコの本に没頭します。
カネコフミコの本は、ミアが読んでいるという体で読者に共有されます。
ミアはシングルマザーの母親と、弟のチャーリーとの3人暮らし。
シングルマザーの母親はドラッグ依存症で、チャーリーは学校でいじめを受けています。
ミアは普段からチャーリーの面倒を見ていて、学校に迎えに行かないといけないのでクラブ活動なども出来ません。
苦しい自分の日常を誰にも相談することなく日々を送っています。
そんな日々の中、同級生のウィルからラップのリリックを書いてほしいと頼まれた事をきっかけに、徐々にミアの世界は変わっていきます。
「両手にトカレフ」は作品全体が不穏な空気で覆われています。
途中2人とも幸せになりそうな流れもあるのですが、その時も手放しに良かったとはなれないのです。
何かあるんじゃないかとハラハラしながら読み進めていきました。
途中カネコフミコが幸せになりそうな時、ミアが「これじゃつまらないと思った」という記述があります。
読んでいる時、ミアに対して同じように思っているんじゃないかと不安になりました。
「両手にトカレフ」に登場するカネコフミコとは
小説の中ではカネコフミコと表記されていますが、金子文子は日本の実在の人物です。
戦前の日本で大逆罪に問われ獄中で亡くなりました。
今はすでに廃法になっていますが、明治から対象にかけて実際にあった法律です。
簡単に言うと、天皇に危害を加えようとした人は死刑というものです。
この法律の凄まじいのは、罪に問われた時点でほぼ死刑が確定するということです。
だって頭の中で考えただけでも死刑ですからね。
証拠は被告からの証言のみです。
しかも、大逆罪の場合裁判は大審院(今でいう最高裁判所)の一回のみ。
実際1911年に起こった幸徳事件では24名に死刑判決がくだりましたが、そもそもそんな企てを知らなかったという人まで含まれていました。政府による弾圧に利用されていた法律だったんですね。
判決は軒並み死刑の判決でしたが、実際は天皇からの恩赦という形で無期懲役などに減刑されている人もいました。
調べたらすぐ写真が出てきますが、この金子文子という人もエネルギーの塊という目をしています。
以前幸徳事件が題材になっている作品に関わった事があり、菅野スガという女性については色々と調べました。
金子文子についても今度改めて自伝を読んでみようと思います。
「両手にトカレフ」の感想
冒頭でも書きましたが、とても面白かったです。
ブレイディみかこさんが日本人なので当たり前かもしれませんが、翻訳物のような読みにくさもなく、すんなりと入ってくる小説でした。
読んでいる時頭の中で動いている登場人物たちの距離感が近く感じられました。
ミアのお母さんは「母親」という名前でしか出てきません。
「母親」のお母さん、つまりミアの祖母は、10代で「母親」を産んで30代で亡くなったそうです。
小説を読むと
「母親」は育児を放棄したひどい人
という風に読めるかもしれませんが
「母親」は「母親」で薬やアルコールに頼らざるを得ない苦しみの果てに今に辿り着いたのでしょう。
子供がいる身としては、ミアの苦しさも「母親」の苦しさも同じように痛かったです。
苦しい生活の中で苦しみに負けてしまった人も、必死で耐えている人も、別の世界を求めてもがいている人も。
みんなを抱きしめたくなりました。
苦しみを踏みつけるような人間にだけはなりたくないと思います。
自分自身は幸せなことに幼い頃貧困に苦しんだという覚えはありません。
ですが、今の日本にも確実にミアのような女の子はいるのでしょう。
ミアと似た境遇の子供たちは、普段ニュースを通してしか知りません。
知るたびに僕はとても苦しい気持ちになります。
どうしたら良いのかはわかりません。
ですが、小さな声を聞こうとする努力をしないといけないと思いました。