演技法にはいくつも種類があります。
世界の天才たちが自分で体現してきた事を元に、一つの方法論として作り上げたメソッドです。
スタニスラフスキー、リー・ストラスバーグ、マイケル・チェーホフ、ステラ・アドラー、サンフォード・マイズナー、ルドルフ・ラバンなどなど。
私たちは先人が築いてきた方法論の上に、自分自身の方法論を確立していかなければいけません。
という事で、本日は
演技法の種類の一つであるベラ・レーヌ・システム
を紹介します。
最初に断っておきますが
私自身はマイズナー・テクニックの俳優・コーチとしてトレーニングを受けました。
ベラ・レーヌ・システムについては専門のトレーニングを受けたわけではありません。
ですので、あくまで私がベラ・レーヌ・システムの本を読んで理解できたと思った範囲での紹介になります。
この記事を見ていただいて
と思った方は、是非専門のコーチについて学んでいただければと思います。
一時期は俳優の近藤芳正さんが定期的にベラ・レーヌ・システムのワークショップを開いていました。
本の著者である岡田正子さんも定期的にワークショップを開いてくれていました。
もし今後ベラ・レーヌ・システムのレッスンを開くという方がいらっしゃれば、私自身も学びたいので、こちらのホームページでも宣伝させて頂きます。是非ご連絡ください。
既に他の演技法について学んでいる方は、別の視点から考えてみる事で一層自分の方法論が深まります。
ベラ・レーヌ・システムの概要
ベラ・レーヌ・システムはロシア人であるベラ・レーヌが、長年の模索の末にパリで作り上げたものです。
演技法はどんなものでもそうですが、他からの影響を受けるものです。
演技法だけではなく、小説だって絵画だって、音楽だって全て他からの影響を受けますよね。
もっと言えば、そもそも人間の使う言葉自体が他からの影響無しではいられません。
私たちは文化の継続の上に成り立っています。
ちょっと話がそれましたが、ベラ・レーヌ・システムでは5感を使って受け取るものを大事にします。
メソッド演技でいう「5感の記憶」と通じる部分がありますね。
スタニス・ラフスキーは19世紀の後半から20世紀の初頭にかけて活躍しました。
ベラ・レーヌは1897年〜1983年。1929年にフランス国籍をとっています。
時期を考えると、やはりスタニス・ラフスキーの影響は多少なりともあったのでしょう。
5感を使って受け取る刺激に対して、心の中でどんな声が流れるのか
というところから演技を考えていきます。
10段階のエクササイズがあり、それぞれとても興味深いです。
演技法はどんなものもそうですが
世界的な名優が当然のように無意識にやっていること
を言語に起こして意識的に捉えようというものです。
ベラ・レーヌが俳優として演じる中で、徐々に意識的にしていったものですね。
無意識にやっていることは再現性がありませんので、後進からするとありがたい限りです。
ベラ・レーヌ・システムのメソッド演技との違い
演じるにあたって、俳優は常に防御的になります。
自意識が働いて防御的になってしまうのは仕方の無いことです。
人前に立つということはそれだけで大きなストレスですから。
そこで先人たちは考えました。
どうしたら自意識を無くすことが出来るだろう?
それで考え出されたのが、様々な種類の演技法だと私は考えています。
メソッド演技やマイズナーテクニックについてはまた後日詳しく説明しますが、簡単に言うとマイズナーテクニックは
行動に集中することで自意識を無くそう
と言う考え方です。
メソッド演技であれば
感情に集中することで自意識を無くそう
と言うことですね。
岡田正子さんの本を読む限り
心の中の声(思考)に集中することで自意識を無くそう
と言うのがベラ・レーヌ・システムの骨子になるのではないかと思いました。
そしてこの心の中の声=思考が
どういった種類があるのか、どんなきっかけで心の中の声に変化が生まれるのか
という考え方になります。
メソッド演技では心の中の声を「インナーダイアログ」と言います。
ただ、インナーダイアログにはいくつも種類はありません。
ベラ・レーヌ・システムでは、インナーダイアログに注目して、より細かく説明してくれているのです。
ベラ・レーヌ・システムの特徴
いくつか私が特に参考になった部分をまとめておきます。
ベラレーヌ・システムではここで紹介する以外にもいくつも考え方があって、どれも非常に参考になる考え方です。
是非実際に岡田さんの本を読んでみて下さい。
二義的動作
名前がちょっと難しいですね。
動作そのものに心が注がれている時の行動というのは一義的動作になります。
同じ行動だったとしても、他のことに心が奪われている場合の行動は二義的動作になるのです。
言われればその通りだな、と理解出来るのではないかと思います。
例えば
簡単な設定ですが、最初は料理することが一義的動作だったところから料理が二義的動作になって、反対にラジオを聴くという行動が一義的動作になるということが経験上理解出来るのでは無いでしょうか?
言われれば理解出来ることなのですが、演技をするときに俳優は
全てを一義的動作にしがちです
ですが我々は、日常生活の中でむしろほとんどの動作を二義的動作でやっていますよね?
刃物や火を使う場合など、集中しなければ危険が及ぶ場合は別ですが。
例えば洗濯物を畳む時に、洗濯物を畳むということだけに集中している方は少ないでしょう。
多くの方は、洗濯物を畳み終わった後の予定だったり、最近の悩み事だったりに思いを馳せながら、二義的動作で処理しているはずです。
二義的動作は普段無意識でやっていることですが、無意識で演じるためには意識的に理解しなければいけません。
意識的に練習しなければいけません。
意識的に練習しておかないと、例えば相手役との口論を一義的に演じながら、二義的動作として洗濯物を畳むなどの演技ができないのです。
ちなみにマイズナーテクニックでは、二義的動作を理解するためにアクティビティというエクササイズを使っています。
セルクル
ベラレーヌ・システムは
心の中の声が根幹の部分になります
ですが、心の中の声は常に一定に流れているわけではありません。
例えば好きなあの子に思いを馳せているときにも
- キッチンから焦げ臭い匂いが漂ってくる
- 玄関のドアが乱暴にノックされる
- 足の上を虫が這う
などの5感への刺激があれば「え!?なに??」と思考の方向性が変わりますよね。
そしてセルクルとは
心の中の声(または実際の声)の方向性
という考え方です。
セルクルはcercleと表記するようですが、円や範囲を意味します。
そして自分の思考の範囲は3種類の大きさに分類されます。
スケールの大きい演技と小さい演技に影響する考え方かと思います。
第一セルクル
内向的な状態。範囲は非常に狭い。
心の中の声は自分の身の回りのものに向かいます。
例えば
朝着替えてる時に「この服でおかしくないかなぁ」などですね。
第二セルクル
範囲は少し広がって、自分以外の対象に意識が向かっている状態。
先ほどの
好きなあの子に思いを馳せている
と言う例で言うと
キッチンから焦げ臭い匂いが漂ってくれば「え!?なに?」と言う心の中の声と共に、意識はキッチンの方に広がっている状態になります。
第三セルクル
これが個人的には一番分かり難かったですが、過去や未来などの非現実の世界に範囲が広がった状態です。
他の言い方で言うと、妄想状態ですね。
先ほどの例で言うと好きなあの子に思いを馳せている状態が第三セルクルになります。
この三つのセルクルをフットワーク軽く移行していると、観ていても飽きない演技になります。
相手とのやり取りをするシーンであれば第二セルクルになっている事が多いと思います。
もしもやり取りをする中でうまくいかない事があれば、このセルクルを意識してみると面白いかもしれませんね。
最後に
いかがでしたでしょうか?
今回ご紹介した考え方はごく一部です。
他にも紹介したい内容がたくさんあったのですが、気になった方は実際に本を手にとって読んでみて下さい。
俳優としての気付きがたくさん詰まっています。
演技指導をする側も、常に演技に関しての知識をアップグレードしていかないといけません。
ベラ・レーヌ・システムだけではなく、今後も様々な演技論を取り入れていきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。