動物園物語 エドワード・オールビーの尖りまくった処女作について解説

動物園物語

有名な脚本ですが、読んだ事はありますか?

名前は知ってるけど、読んだ事はないんですよねー!
こんな方が多いのではないでしょうか?
わかるよ!戯曲ってすごく読みにくいからね!

 

私は知識として知っておいた方が良いだろうと思い20代前半の時に読みましたが、その時はさっぱり意味が分かりませんでした
読みにくい戯曲というジャンルの中でも、動物園物語は読みにくい方です。
作者のエドワード・オールビーは、登場人物が語る過去について
「真実もそうでないものもある」
と言っています。
これが混乱に拍車をかけるんですね。
私は分からないなりに一応最後まで読み終えたのち

 

うん。なるほどね!

 

と、1人で分かったふりをした事を覚えています。

 

ということで今回は、改めて「動物園物語」に向き合ってみました。
脚本を読むのが苦手という方にも興味を持ってもらえるように、分かりやすく解説したいと思います。

動物園物語のあらすじ

あらすじの時点で早くもこの脚本について書こうと思った事を後悔しています。

なぜならこの動物園物語という戯曲は

不条理性が強くて、あらすじらしいあらすじは無いのです。

 

不条理演劇の代表となる「ゴドーを待ちながら」は1953年に発表されており、誕生日の近い1958年の動物園物語もかなり影響を受けていると言われています。

これはもういろんな解釈がある物語です。

何が正しいのかという事でも無いので、この記事では完全に私の解釈で解説したいと思います。

 

一言でまとめると

死ぬ覚悟を決めた男と生きる覚悟の無い男のぶつかり合い

ということでしょうか。

 

登場人物はジェリーとピーター

 

ある昼下がりの公園で、ピーターが本を読んでいます。

そこへジェリーがやってきて「動物園に行ってきた」というところからお話が始まります。

ジェリーが感じているのは圧倒的な孤独感。

人間だけではなく、動物も植物も全てが自分とは繋がっていないと感じています。

 

一方ピーターは中流階級の男

家族は二人の娘と奥さん、それに猫とインコが2羽

大きな不満は無いようですが、家には居場所が無いようです。

日曜日の昼間から公園のベンチに座って本を読むくらいですからね。

 

ジェリーの話はドンドン熱を帯びてきて最後には・・・

というお話です。

 

 

ちなみに

「動物園物語」が発表されてから約50年が経ってから、動物園物語の前の時間の物語が発表されました。

現在「動物園物語」は単独での上演が認められておらず、「家庭で、動物園で」という2幕ものの舞台となります。

今回ご紹介しているのは2幕目の部分となりますが、1幕目ではピーター夫妻の物語が展開されます。

 

動物園物語の作者、エドワード・オールビーについて

1928年生まれのアメリカの劇作家です。
1958年に執筆した「動物園物語」がデビュー作と言われています。

エドワード・オールビーは生まれて2週間で母親から親権を放棄されて養子に出されています。

父親の顔をも知らずに育ったそうで、ジェリーと重なる部分が大きいのでは無いでしょうか。

 

キャラクターの読み解き

ジェリーは11歳の頃に母親を亡くし、そのすぐ後に父親も車に飛び込んで自殺しました。

その後はおばさんに引き取られましたが、そのおばさんも高校の卒業式の時に亡くしています。

おばさんはいつもムスッとしていたと語っているので、おそらく反りが合わなかったんでしょう。

現在は壁がペラペラのベニヤ板で出来ているような安アパートに住んでいます。

 

物語の途中、ジェリーは長々と自分の暮らしについて話します。

セリフの中で持っているものを説明してくれるのですが

(前略)持っているモノは、洗面道具に衣類若干。それから持ち込み禁止の電気コンロ1台、缶切り一個、こいつは、ホラ、ネジ回し式のやつ。それから、ナイフ一丁、フォークとスプーン二本ずつ、ちっちゃいのとおっきいの。皿が三枚、コーヒーカップ一個、受け皿一個、グラスが一個に、写真立てが二個、どっちもからっぽ。本が八、九冊。ポルノ写真入りのトランプ一組、これは普通サイズ。それから電報局用のおんぼろタイプライター一台、だから大文字だけしか打てやしない。錠前のぶっこわれた手さげ金庫、中身は・・・なんと、石っころだ!・・・子どものとき海岸から拾ってきた丸っこい石が五、六個。その下にね・・・石の下に・・・手紙が1束・・・お願いの手紙・・・ぜひお願いします、早くお願いしますの手紙。それから、いつですかの手紙。いつお返事もらえますか?いつ来てくれますか?いつですか?こいつはだいたい最近来る手紙だ。

ながい・・・!!!

 

とにかくジェリーはこんな調子でずっと喋っています。

ジェリーの全てについて考察をするのはキツいので、とりあえずこの持ち物だけ考えてみましょう。

この中でもいくつか気になる事がありますよね?

 

私としては

  • 子供の時海岸から拾ってきた丸っこい石が五、六個
  • 手提げ金庫に入ったお願いの手紙
  • どちらも空っぽの二個の写真たて

ここらへんが気になります。

 

子供の時海岸から拾ってきた丸っこい石が五、六個

例えば、子供の時海岸から拾ってきた丸っこい石を大人になっても持ってる人っていますか?

 

そんな人いませんよね(笑)

でも、子供の頃に遊びに行った先で石を拾ってきた経験は誰しもあるでしょう。

ジェリーはその石を30年近く持っているのです

 

ジェリーにとって「子供の時に海岸で拾ってきた石は大人になっても持ち続けるほど大事なものだった」ということかと思います。

おそらく両親との唯一の思い出なのでは無いでしょうか?

 

ジェリーの母親は、ジェリーが10歳の時にジェリーと父親を残して家を出ています。

以下はジェリーが父親と母親について語っている部分ですが

(前略)なつかしのおふくろは、ぼくが十歳六ヶ月のときに、おやじを捨てて家をおん出たんだ。我が南部の町々をドサ回り・・・男から男への道中双六一ヵ年・・・その間のもっとも忠実なりし彼氏は・・・ほかにも大勢いたけどさ、とりわけ忠実に連れ添ったやつは・・・ミスター・アルコールって野郎。とにかく僕はそう聞かされた、なつかしのおやじから・・・おやじが死骸を引き取りに・・・南部へ行って・・・戻ってきてからね。しらせがあったのは、クリスマスを過ぎた年の暮れ、なつかしのおふくろはアラバマ州のどことやらで霊魂とおさらばしたってね。
(中略)
とにかく、そんなわけで、なつかしのおやじは、たっぷり二週間、正月の祝い酒をあおったあげく、どうやら動いていたバスの鼻先に衝突しておだぶつ、おかげで家庭のガラクタがどんどん片づいてくれた。

ながいーー!!!

 

ジェリーのお母さんは、男を作って出て行っちゃったそうです。

でも、そんなお母さんが亡くなった時に、お父さんが遺体を引き取りに行ってるってちょっと不思議じゃないですか???

本当に家族を捨てて男と出て行ったお母さんなんだったら、お父さんが遺体を引き取りに行くでしょうか?

 

 

動物園物語の時代背景は1958年。
ジェリーは30代後半との記載があるので、お母さんが出て行ったのはだいたい25年〜29年前ということです。

そして、世界恐慌が起こったのが1929年。

動物園物語の舞台から考えると、ちょうど29年前ですね。

世界恐慌の後1930年代の後半まで世界は大不況でした。

つまり、お母さんが出て行ったのは大不況真っ只中なんです。

 

だとすると「南部の町々をドサ回り、男から男への道中双六一ヵ年」

これって、仕事の無くなったお父さんの代わりにお母さんが娼婦に身をやつして生計を立てていた

とも読めますよね。

 

もしそうなら、ジェリーが子供の時の思い出の石をいまだに大事に持っていることとも辻褄が合います。

ジェリーはお母さんにちゃんと愛情を持っていたんですね。

お母さんが亡くなって、お父さんが自殺してしまったのも分かる気がします。

手提げ金庫に入ったお願いの手紙

そして、手紙
これも色々考えられますよねー。

 

私はこの手紙「ジェリーがお母さんに宛てて書いた手紙」なのではないかと思いました。

 

「お母さん、いつ帰ってきてくれますか?いつですか?」

と一生懸命書いた手紙を、10歳のジェリーは出せなかったのではないでしょうか?

お母さんは家の為に働いてるのに、そんなわがまま言えなかったんでしょう。

出せなかったけど捨てる事も出来なくて、手提げ金庫の中に保管している。

 

と、読ませてくれるとありがたいんですが。。。。

「最近来る手紙だ」

ってジェリーが言ってるんですよねーーー。

困りものです。

 

しかしジェリーの言うことはどこまで本当なのか?と言う問題も常につきまといます。

もしもこの手紙が督促状のようなものなんだとしたら、そんなの宝物BOXに入れておくか?と言う気もしますし。

ひとまず「最近来る手紙」と言うのはジェリーの嘘ということにしておきます。

 

どちらも空っぽの二個の写真たて

写真たては、はたして本当に空っぽなのか?

空っぽだとしても、最初から空っぽだったんでしょうか?

 

少なくとも、最初はなんらかの写真が入っていたはずです。

そもそも荷物が少ないのに、最初から空っぽの写真たてを持っておく意味が無いですからね。

途中で写真が抜かれたとしたら、どういうことが考えられるでしょう?

 

恋人との別れでしょうか?

 

ジェリーは15歳の時に同性愛者だったことも語っています。

(前略)それでその十一日間というものは、毎日最低二回はその子と会っていたのさ。公園管理人のせがれ・・・ギリシア人、誕生日が僕とおんなじ。ただし、向こうは一歳年上だ。夢中だったね、その時は・・・まァおそらくセックスだけに夢中だったんだな(後略)

最低二回会うほどに夢中だったのに、会っていたのは十一日間だけなのです。

 

今では考えられませんが、1969年にニューヨークで運動が始まるまで、同性愛者というだけで暴力を受けたり逮捕されたりということがありました。

1930年〜1940年代に同性愛者がどういう扱いだったのかは推してしるべしですよね。

 

写真たてには、本当は同性の子の写真を入れているのかもしれません。

もしくは両親の写真を入れているのかもしれません。

ここらへんはあまりにもヒントが無いので、一番ピンとくるものをチョイスするべきかと思います。

 

まとめ

さて、いかがでしたでしょうか?

今回はあまり読むことのない、戯曲を紹介してみました。
戯曲って普通の小説などよりも想像力を使って埋めないといけない部分も多いので、純粋な楽しみとして読むには適さないものかと思います。

ですが、俳優を志す方にとっては読むだけでトレーニングになります。

 

最初から動物園物語だと挫折してしまうかもしれないので、「父と暮らせば」なんかがおすすめです。

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想像してみて、声に出してみたいセリフがあったら是非声に出して読んでみてください。

まだ演技をしたことがない方は、スマホで自分の声を録音して聞いてみるだけで良いトレーニングなるかと思います。

 

いろんな作品に触れていきましょう!

今日もありがとうございました!

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